レイフィルの修道院は院長がベルリーニ伯爵領の土地を借りて施設を運営している。僅かな牧草地の収益でやりくりしながら、身寄りのない子供達を育てているのだ。
 
リリシアは手提げから小さな巾着袋を取り出した。

「あの、今日はこれを寄付させてください」

 袋の中にはリリシアの小遣いが入っている。あまり自由にできる金はないのだが、彼女の精いっぱいの気持ちだった。院長は皺のある顔をくしゃくしゃにして深く頭を下げた。

「本当に、お気持ちだけで……なんとありがたいことか」
「いえ、いつも少なくてごめんなさい」
「とんでもない!私どもは皆、お嬢様に感謝しておりますよ」

 王国の貴族たちは数十年前にこぞって慈善事業を始めた。この修道院もその一つである。だが、現ベルリーニ伯爵は明らかにここに興味がなく、援助も年々減ってきているのだ。
 
 リリシアはそういった事情を知らないが、この修道院の運営が厳しいのは肌で感じていた。

「我々は多くを望みませんが、やはり子供には健やかに育って欲しいものです」
 
 院長は穏やかに微笑む。

「私の父は修道院で育ててもらったことをとても誇りに思って感謝していました。でも、遠い地方ですし、昔のことなのでどこにあるのかわからないんです。いつか行けたらいいんですけれど……」
 リリシアは俯いた。伯爵は父の出生地のことは何一つ教えてくれない。