「せ、セヴィリスさま……、どうなさったのですか?」
「……貴女の魔印の世話をするのは私の役目だ」
 聖騎士長は小さな声で呟いた。

「え、いま、なんと……?」

 彼はもう片方の腕でリリシアの腰をぐっと掴む。
「貴女の魔印に触れていいのは私だけだ。だから、他人に容易く触れさせてはいけない。わかった?」

 抱き寄せられながら、低い声で囁かれる。声には苛立ちと、怒りと、焦りが含まれていた。

(あ……、さっきの……ダリウス様のこと)

 リリシアははっと顔を上げる。少し乱れた蜂蜜色の髪が額に垂れていて、どこか野生味を帯びていた。威圧的な表情にぎゅっと心臓が縮こまる気がした。

 すこしだけ、ほんのすこしだけ、ベルリーニの養父や養母の影がよぎった。

「は、はい……も、申し訳、ございません」
 リリシアは肩を小さく震わせ、俯いて謝った。夫のこのような視線には耐えられない。

「ご、めんなさい、私、ほんとうに……」

 子供が謝る時のような妻の震え声に、セヴィリスの表情が瞬く間に変わる。彼は慌てて手を離した。

「ご、ごめん……っ。失礼した。怖がらせるつもりではなかったんだ、ただ」

 セヴィリスは焦った表情になり、地面に膝をつくと俯いたリリシアの顔を見上げた。