庭園を離れ、見知らぬ小道に入る。 

 夫のセヴィリスは無言でリリシアの前を歩き続けた。

 彼の歩き姿は凛々しく、後ろからだと脚の長さがさらによくわかる。

(そ、そうじゃなくて……っ。どうかなさったのかしら。セヴィリス様……)

 リリシアは彼に見惚れそうになりながら後を追いかけた。いつも必ずリリシアに合わせて歩いてくれていたのに、こんなことははじめてだった。心なしか、夫の背中は強張っているようにもみえる。

「セヴィリスさま……?」

 リリシアは思い切って声をかけた。だが、彼は聞こえていないかのようにずんずんと歩き続ける。

「だ……旦那さまっ」

 肩がピクリと揺れて、立ち止まる。そしてセヴィリスは振り返った。リリシアのほうへ戻ってくる。宝石のような翠の瞳が苛立ちで揺れていた。彼の腕が伸び、手首をきゅ、と掴む。そして、リリシアの身体はぐいっと引き寄せられた。

「え?あ、の……っ」

(ち、近い……っ)

 魔印の手当てをする時以外、セヴィリスがリリシアの体に触れることはない。彼の手はいつも冷たかった。きっちりと自らの手を聖水で清めてからリリシアの肩に触れるからだ。
 今手首に触れている彼の指はひどく熱い。リリシアは思わず手を引っ込めそうになる。だが、彼はそれを許さなかった。代わりにさらに力を込めて引き寄せられる。