ダリウスはリリシアに片目を瞑ってみせる。その魅力的な笑顔に彼女は少し頬を赤らめて礼をした。セヴィリスはさらに美しい顔に皺を寄せた。
「全く……、叔父上の女人好きには父も呆れておりますよ。では。さあ、リリシア殿」

 セヴィリスは吐き捨てるようにそう言うとスタスタと歩き始めてしまった。リリシアは慌てて後を追う。

「セヴィリス、あとでまた杯を酌み交わそう」

 ダリウスはセヴィリスのそんな態度にもただニコニコとしながら二人を見送っていた。するといつのまにか隣に家令のアンドルが控えている。彼も微笑んでいた。

「やっとリリシア奥様にご挨拶ができて、よろしゅうございました」
「ああ。魔獣に立ち向かったと言うからどんな屈強な女戦士かと思えば、可愛らしいご令嬢じゃないか」

「もうご令嬢ではございませんよ。ダリウス様。デインハルト家の奥方にございます」

「ああ、そうだったな。それにしてもついついセヴィリスのことは、幼い少年だと勘違いしてしまうな。あれはそれがよっぽど気に食わないのだろう」

 ダリウスは目を細めて二人を見守る。

「とはいえ、あの二人は夫婦だろう。もしかして、まだあんな調子なのかね」
「ええ、ぼっちゃ……セヴィリス様は真面目でらっしゃるので」
「ふふん、やっぱりこどもだねえ」

 ダリウスは楽しそうに笑った。