「そう、では貴女は、ご自分の感謝を伝えるために、この茶会を計画したんだね」
「は、はい……。皆様に、楽しんでもらいたくて」
「その点は大成功のようだ。彼らの楽しそうな顔、良いじゃないか」

 苦労している者も多いからね、と呟きダリウスは目を細めて館の庭園を見渡した。彼の視線の遥か先には、大きな石の堅牢な建物が見えている。

「あ、あの……ダリウス様は、聖騎士様なのですね」
「そうだね。陛下に十五の時に剣を頂いて、もう三十年以上になる」

 ダリウスは明るく頷いた。

「セヴィリス様のお父様の、ご兄弟でいらっしゃると……」
「そうだよ。私はデインハルト伯爵の不肖の弟だ。兄はさっさと引退して他国へ行ってしまったが、私はまだ頑固にあの建物にしがみついているんだ」
 彼は苦笑いした。
(セヴィリス様のお父様……外国にいらっしゃるのね。私、何もあの方のこと、知らないんだわ)
  セヴィリスはとても優しいが、自分のことをべらべらと話す男ではない。さらに、リリシアは人にものを尋ねるのが苦手だ。名ばかりの夫婦ということもあって、二人はなかなか互いのことを深く知ることができなかった。

 ダリウスはリリシアをじっと見る。
「……何か尋ねたいことがあるなら聞きなさい。遠慮しなくていい」

 彼はとても話しやすい気がして、リリシアも思わず口を開く。

「あの、あちらの建物は……」

 リリシアは彼が来た方角を示す。あの大きな建物がなんなのか、セヴィリスにずっと聞きそびれていたのだ。
「ああ。まだご存じなかったか。あれは聖騎士団の本部だ。聖騎士はあそこで暮らし、様々な訓練を行っているんだ」
「本部……そうなのですね」
「あそこは独立した機関だから出入り門も全て別だ。このデインハルトの館とは切り離されている。まぁ、セヴィリスはこことあちらと、どちらの主でもあるんだが」

 では、セヴィリスがいつも姿を消すのはあそこに行っていたのだろうか。
「セヴィリス様は、あちらでよくお過ごしになるのでしょうか?」
「なんだ? 夫のことを知らないのかね」
「あ、いえ……」
 どこか面白がるような目つきに、リリシアは俯いてしまう。