「これはこれは、なんともいい匂いじゃないか!」

 リリシア達が庭園にあるガゼボでそのあともおしゃべりを楽しんでいると、不意に力強い声が背後から割って入ってきた。


「美しい貴婦人がた、お邪魔してもよろしいかな?」
 女性たちははっとしたように振り向くと、皆嬉しげに声を上げた。
「まぁ、ダリウス様……っ」
 男も女も立ち上がり姿勢を正して並ぶ。そして恭しく頭を下げた。
「みんな、今日はやけに楽しそうじゃないか」
 館の離れにある大きな建物の方からやってきた紳士は大きな声で笑う。

(どなたかしら……初めてお会いする方だわ)

 リリシアたちの前に現れたのは、四、五十代の男性だった。袖のない胴衣にかっちりとした丈長の上着を羽織り、腰には剣を提げている。貴族階級に間違いないが、館の中で見かけたことはない。どこか野生的であけすけな話し方をする男だ。

 波打つ豊かな茶髪、緑の瞳が印象的な紳士にリリシアも立ち上がりドレスの裾を摘んで会釈すると、アンドルが一歩進み出た。

「ようこそ。ダリウス様。よくいらっしゃいました。こちらはセヴィリス様の奥方、リリシア様でございます」
「はじめまして、リリシアでございます」

「おお、貴女がセヴィリスの……。お会いしたいと思っていたのですよ、可愛らしい奥方」

 紳士はずいっと前に出てリリシアの手の甲に恭しく口づけた。

「リリシア様。この方はセヴィリス様の叔父上にあたられます。ダリウス・デインハルト様でございます」
「ダリウスです。奥方。婚礼式に立ち会えず、ほんとうに残念でした。昨日、やっと帰ってきましたのでね」


 彼は若々しい声で挨拶する。
「ま、あ……。セヴィリス様の、叔父様……でしたのね」

 リリシアは驚いて彼を見上げる。確かに目元が二人はよく似ていた。彫りも深く、美しい顔立ちだ。だがダリウスは、そこら辺の若者よりよっぽど逞しくみえた。