「ええ、それはもちろん。どこへ参りますか?」
「レイフィル丘近くの修道院へ」

 修道院と聞いて御者は怪訝な顔をした。積極的にあのようなところへ行きたがる貴族令嬢など滅多にいないからだ。
 だが彼は黙って頷くと馬を走らせた。金をもらえるからだ。

ベルリーニ領へと入り、ほどなくリリシアは石造りの質素な修道院へと到着した。

 鉄製の門が開き、リリシアの乗った馬車が庭に入っていくとたくさんの子供達がいっせいに駆け出してきた。併設されている孤児院の子供達だ。
 彼らはさっきか、目ざとく馬車を見つけていて、そこから降りてきたのがリリシアだとわかるととたんに笑顔になる。あっという間にリリシアは少年少女に取り囲まれた。

「リリシアお姉ちゃんだ!」
「リリシア様、また遊びに来てくれたの?」

 さまざまな年齢の子たちが口々に嬉しそうに彼女の名を呼ぶ。リリシアは先ほどの嫌なことなど忘れてしまい、心からの笑顔になる。

「こんにちは、みんな」
「うん、ねえ、はやく一緒に遊ぼう!」
「ええ、そうね。先に院長先生にご挨拶させてね」

 彼女は皆に押されるようにして、粗末な建物へと入っていった。

 ✳︎✳︎
「リリシア嬢、本当にいつもありがとうございます。貴女がくると皆、はしゃぎ過ぎてしまって。ご迷惑をかけているのでは?」

 子供達と十分に遊んだ後、リリシアは狭い応接室へと通された。初老の院長は聖職者の普段着である白い長衣を身につけているが、何度も洗濯を重ねたせいで所々綻びができている。

「そんなことありませんわ。みんなと遊ぶのはとても楽しいですし、いつも元気をもらえますから」
 リリシアは微笑んだ。頻繁に訪ねることはできないのだが、彼女はここに来ると子供たちの笑顔に癒されるのだ。