「私は貴女をここに迎えたときに言ったよね。好きに過ごしてほしいと。みんなで望み通りにするからと。これは館の者皆の気持ちなんだ」
「え、ええ……」

 リリシアは微笑もうとしたが、かえって頬がぴくぴくと引き攣ってしまう。自分の望みなんてそんなもの、伝えても鼻でせせら笑われてきた。それに、望みをなんでも言っていいなんて、そんな価値は自分にはない。

「わたしはなんでも、なんでもだいじょう、ぶ……」

 言いかけたところを、セヴィリスが優しく遮った。

「『大丈夫』、ではなくて、貴女のやりたいと思うことを尋ねているんだ。ゆっくりでいい。何かしたいこと、ほんとうにないのだろうか?」

 もちろん、無理にとは言わないけれど。

 真摯だが、遠慮がちなその言い方に、胸がきゅっと詰まる。

(本当に……、お伝えしてもいいのかしら)

 実は、ずっと気になっていることがひとつある。だが伝えてもいいのか躊躇う。リリシアは迷った。セヴィリスはただ、静かにリリシアを待っていてくれる。

「で、では……」

 彼女は芳しい薬草茶をこくりと飲み、ティーカップを置くと息を吸った。

「ベルリーニ家の領地にある修道院のことです。森で助けたあの子たち。シノ達の無事を確かめたくて……」

 セヴィリスは一瞬大きく目を見開く。だがゆっくりと納得したように頷いた。