次の夜。夫妻はまたリリシアの寝室にいた。ゆったりとした手当ての時間が流れる。そして夫は席を立つと、今度は側のテーブルでお茶の準備を始めた。スパイスのつんと来る匂いが鼻をついた。
 薬葉の説明をしてくれたのだが、今夜もドキドキしてしまって頬を赤くしているリリシアの耳にはさっぱり入ってこない。

「リリシア殿。……リリシア殿?」

 リリシアははっと顔を上げた。

「は、っ、はい!」
「できたよ。どうぞ、熱いから気をつけて」
「い、頂きます……」

 セヴィリスはティーカップを彼女に渡すと、再び椅子に腰を下ろした。また、きっちりと膝をそろえて座る。そして、少し躊躇いがちに妻に尋ねた。

「貴女をここに迎えてそろそろ二十日ほど経つけれど、なにか、やってみたいことなどはないのかな?」
「……え?」

(やってみたいこと、って、どういう意味かしら)

 リリシアは言葉の意味がよくわからなくて、ティーカップを掲げたまま首を傾げる。

 セヴィリスは長いまつ毛を忙しなく瞬かせ、困ったように眉を下げた。

「ええと、侍女のサラや、家令のアンドルから何度か頼まれているんだ。貴女にやりたいことを尋ねるようにと。ここの生活に馴染んでもらうためにも、なにか楽しみを見つけるのはとてもいいことだと私も考えている」

「私の……楽しみ、でございますか?」
「そう。貴女は、何をしたら一番楽しいのかと。たとえば芝居を観たいとか、吟遊詩人を呼びたいとか。そう、豪華な庭園を作りたいとかね。貴女はその……あまり自己主張をされないと聞いたから」

 ともかく、奥様はなにかお望みはないのでしょうかと迫られるというのだ。

「そんな、私はなにも……このお館では本当に良くしてくださって、これ以上望むものなどありませんわ」

 セヴィリスはリリシアをじっと見る。