「奥様、リリシア様。本日はどのようなお食事がお好みでしょうか? 料理番が腕によりをかけますのでなんでもお好きなものをおっしゃってくださいませ」

「リリシア様、衣装部屋はこちらです。今日は仕立て師を呼んでおりますから、お好きな生地でドレスから狩の服まで、なんでもお作り頂けますよ」

 婚礼の翌日から、館では全てこの調子だった。皆、リリシアの好みを尋ね、なにをしたいかを聞いてくる。

日中のデインハルト邸はほぼ彼女を中心に回っているような感じだった。リリシアは環境の目まぐるしい変化についていくのに必死で、ただただ戸惑い、感謝の言葉を口にするので精一杯だった。

歴史ある伯爵家の奥方となった者が大切に扱われるのは普通のことなのかもしれない。だが、リリシアは世話をやかれたり傅かれたりすることに全く慣れていない。何をしたいか、何が好きかなど聞かれたことがないのだ。