リリシアは躊躇いながら挨拶を返す。奥様と言われるとなんともぎこちない気持ちになる。

サラはリリシアより4、5歳は年上に見えた。彼女は明るく微笑むと、

「お加減はいかがですか?昨日はよくお休みになれましたか?」
 と尋ねてきた。
「え、ええ……大丈夫……っ」

(お加減って……、ほんとうなら昨夜は初夜、のはず……)

 リリシアは慌てて寝台を振り向いた。

 血の跡も、乱れた敷き布もない、なんの痕跡もないまっさらな寝具。新婚初夜の寝台にあるまじき美しさである。かろうじてセヴィリスが座っていた椅子だけが残っている。

彼女は恥ずかしさと居心地の悪さでいっぱいになりながら何度も頷いた。

「な、なんともない、です……」
「それはよかったです。セヴィリス様から具合が悪ければお休みになられるようにと言いつかっておりましたので」

 サラは気遣わしげに彼女の肩のあたりを見つめた。

「あ……そ、そういえば」

 昨夜セヴィリスが手当てをしてくれたおかげなのか、ここのところずっと続いていた肩の疼きは消えていた。そっと肩布を外してみる。歪な円の印は相変わらずそこにあって黒く不気味にリリシアを見つめている。

でも昨日のような激しい違和感はもうなかった。
「聖水が効いたのでしょう。よかったですね!もしご気分が悪くなったらすぐに仰ってください」

(サラさんは、どこまで知っているのかしら……)