ぴぴぴ、ちち、という賑やかな小鳥の鳴き声が聞こえる。歌うようなおしゃべりをしているような、なんとも楽しげな音色だ。

 心地よい響きに、リリシアは微睡のなかで微笑んで大きく寝返りを打った。

(なんて、気持ちいいのかしら……)

 陽の光が、ふわふわと柔らかく瞼を撫でる。芳しい花の香りのなかで彼女は夢うつつにぼんやりと考えた。こんなに深く眠れたのは久しぶりだ。もうずっと、夜が明ける前に仕方なく誰よりも早く起きていたのだから。

 瞼の裏がチカチカと優しく明滅する。もう、日が昇ってどれくらい経つのだろう。いつもなら、とっくに侍女がバタンとドアを乱暴に開けてくるのだが、一向にその気配はない。それに、なぜこんなに、花の香りが漂うのだろう。

(あっ……)

 そこでリリシアははっと目を開けた。慌てて身を起こし、あたりを窺う。

 大きな装飾窓を覆う分厚い布の隙間から、陽の光がちらちらと覗いていた。薄明るく見覚えのない室内に、花があちこちに飾られている。そして壁際には真っ白なドレスを纏ったトルソーが。
 繊細なレースを幾重にも重ねた袖口、真珠を散りばめた胸元の輝きは朝の光にも誇らしげだ。
 これは昨日、彼女が身につけた花嫁衣装だった。
(こ、ここ、は……そうだわ。私……昨日婚礼式を。そしてこのお屋敷に)

 ここはデインハルト卿の館だ。リリシアは今日からこの屋敷の夫人となったのだ。