リリシアは戸惑いと驚きで何度も瞼をぱちくりとさせた。やはり信じがたい。そんな話は、ベルリーニ家の食卓でも、誰の噂話でも聞いたことがない。

「あの日は、魔物……それも人型のものが出るという噂を辿って私たちは森へ向かっていたんだ。でも、間の悪いことに、あの少年たちが先に遭遇してしまった」

 あの時の恐怖がまざまざと蘇る。リリシアは知らず、自分の肩を庇うように身を縮めてしまう。
「怖い思いをさせてごめんね。私たちは、あれを、ラギドを追ったのだけれど、奴は姿をくらませてしまったんだ」

 セヴィリスの剣によって魔物は深い傷を負った。だが滅することはできなかったのだという。

「そ、そうだったのですね……でも……」

 リリシアは思い切って尋ねてみた。

「セヴィリス様。あの魔物と、この婚姻と、なにか関係があるのでしょうか」

「ああ。大いに関係がある。貴女の、その印だよ。これは魔印といって魔物が気に入った獲物につける呪なんだ」
「呪……?」
「そう。奴は君に印をつけた。必ず手に入れようとやってくる。悪夢はあの魔獣の意思の表れだ」

 リリシアは思わず肩を庇った。これが、印?