「あ、ああ……。私はよく、剣を持つと印象が変わると言われるんだ。だからかな」

 セヴィリスは少しきまり悪げにそういうと、
「でも、それなら話は早いね」と苦笑いした。

「あの時はっ……ほんとうにありがとうございました」
 リリシアはあわあわと頭を下げる。こんな所で再会するなど思ってもみなくて、何から話していいのかもわからなくなってしまう。
「私こそ、危ないところを貴女に助けてもらった。感謝する」

 二人は、改めて目を合わせた。夫婦となったその夜に、なんともぎこちない再会の挨拶をしていることがリリシアにはとても不思議に感じられた。
 セヴィリスは改めて話を続けた。

「我々デインハルト家は、古来よりこのグリンデル領で魔を屠る命を負っている。『聖騎士』と呼ばれる血筋なんだよ。私は少し前に首領を引き継いだんだ」

 聖騎士についてはご存じだろうか?と青年はリリシアに尋ねる。
 リリシアは曖昧に頷いた。

 聖騎士ーー。はるか古、魔物がこの国を跋扈していた時代、人を守るために剣となり盾となり戦ったという聖なる騎士たちのことだ。だが既に神話の時代は終わり、人間の世となった今ではその伝説だけが各地に残っているだけだ。リリシアは幼い頃、眠る前にいくつも聖騎士の冒険話を両親にねだったものだ。

「聖騎士……様? それは、我が国のおとぎ話では……?」

 セヴィリスは柔らかく首を横に振った。

「はは。まぁ、大抵の人にとってはお伽話の登場人物でしかないよね。でも、聖騎士は今でもいる。だって、君が森で遭ったのは間違いなく魔物だっただろう?」

 リリシアは頷いた。あのような禍々しいものは、この世のものではない。

「だから、……この地に魔物がいる限り、聖騎士の役目は終わらないんだよ」
 セヴィリスは重々しくそう言う。


「で、でも。ほ、ほんとうにそんな、ことが……?」