リリシアは目に見えて怯えた顔になった。一番の悩みの種をずばりと言い当てられたからだ。揺らぐ蝋燭の灯りで、セヴィリスの緑の眼はリリシアを捉えて離さない。

帽子やヴェールや白粉で隠した隈だけではなく、自分の何もかもを見透かされている気になった。

(この方は、どうして……知っているの?)

 リリシアは震える瞳で首を横に振った。毛むくじゃらの魔獣がいやらしい目で迫ってくるのです。などと誰がめでたい結婚式の夜に打ち明けられるだろうか。

「いえ、夢など……そのような……、ことは」
「大丈夫。隠さなくていい。なによりも、その印が雄弁に語ってくれる。あなたは毎晩のように悪夢を見ているんじゃないかな」

 セヴィリスは穏やかな声でリリシアを気遣ってくれる。過敏になっている神経を安らかに包むように。
 彼女は胸のあたりをぎゅっと掴み、ゆっくりと頷いた。

「ゆ、夢は、みています……、とても、嫌な夢……。でも、なぜ貴方様がそのことをご存じなのか、ぜんぜん、わかりません。この奇妙な印のことだって……自分でもわからなかったのに」


 彼は少しだけ言いにくそうに切り出した。

「その印をつけられた時に、私もいたから。……貴女は気づいていないかもしれないが、私たちは初対面ではないんだ」

 リリシアは思わず大きな声を出した。

「や、やっぱり…!……森でお会いしたのは、貴方様でしたのね?」

 馬車で感じたことは間違いではなかったのだ。印のことはわからないが、リリシアははっきりと確信した。

 彼は驚いたように目を瞬かせた。

「やっぱりって……、知っていたのかい?」
「ええ、だって、あのような体験、忘れたくとも忘れられるはずはありませんもの。でも、あの……貴方様かどうか自信はなくて……とても、その。勇猛な印象だったものですから、人違いかと」

 森で少年と自分の命を救ってくれた剣士はやはり、今目の前にいる青年だったのだ。