彼女は小さな声で、おそるおそる尋ねた。こういう場合、リリシアはとても過敏になる。尋ねたいことがあっても、相手はたいてい自分の都合で話を打ち切ったり、馬鹿にしたような視線を送ってくるからだ。少なくともベルリーニ家では彼女の疑問や意見をまともに取り合ってくれる人間はいなかった。

 だからつい、こわごわと相手の様子を窺ってしまうのだ。

 セヴィリスは慌てて彼女を宥める。

「ごめん。これでは説明不足だね。まず、どこから話したらいいだろうか」

 彼はしばらく考えてから、リリシアの肩に視線を寄せた。

「貴女の肩なんだけれど、ご自分でもう一度よく見てほしい」

 彼の眼差しは真剣だ。リリシアは素直に従ってランタンの光の下で絹布を外し露になった自分の左肩を見てみる。

すると、いつのまにかそこには奇妙なアザができていた。肩口に爪で引っ掻いたような歪な円が描かれているのだ。

 一粒のブドウくらいの大きさの、ただの歪んだ円。なのにそれは見ているだけで気分が悪くなるような禍々しさを纏っている。
 リリシアは眉を顰めて呟く。

「こ、れは……?こんなの、今までなかったのに」
「いや、この印は少し前につけられたはずだ。……身に覚えはないかな?……それに、最近良くない夢を見たりしないかい?」
「え?」

 彼女は口を覆って、セヴィリスを見る。
「夢……って」

(なぜ、そのことを……)