(せ、セヴィリス様?)

 焦りを含んだ声が聞こえる。

(大丈夫ですって……?)


 扉の向こうにいるはずの彼がなぜそんなことを叫んでいるのか。リリシアの様子など知るはずもないのに。

 くらくらしながらもリリシアが「だ、だい、じょうぶ、です……」と答えたとき、大きく扉が開かれ青年が飛び込んできた。その場で倒れそうになっているリリシアを間一髪で抱き止める。

「ああ、……やっぱり」
 彼はそう呟くと、リリシアをゆっくりと寝台へ横たわらせる。
「……ごめん。早めに宴を抜け出そうとしたんだけど」

 なぜか彼は悲しそうに謝ってきた。

「せ、セヴィリスさま……?な、なにを」

 リリシアは彼の言っていることが全くわからない。ただ、肩が焼けてしまいそうに熱い。

「今夜は満月だ。影響が出ても無理はない」

 彼は優しくリリシアの肩から白い絹衣をずらした。

「あ……」
「ごめん、少しだけみせてほしい」

 彼はリリシアの熱を持った肩を一目見ると一段と厳しい表情になった。

「ラハルト!薬壺を持ってきて」

 扉の向こうへ大声で叫ぶ。瞬く間に一人の青年が現れ、セヴィリスに銀器を渡す。

「ありがとう。それと、後で温かい飲み物を頼む」

 彼はそっと薬壺の中身を彼女の肩へ塗り始めた。軟膏だろうか、ヒヤリとした冷たさが気持ちいい。リリシアは知らず、そっと息を吐いた。

「痛くない?」
「は、い……」

 晴れて夫婦となり花で飾られた二人の部屋に、薬草のつんとした香りが漂いはじめる。