そのあとは互いに黙ったままで、ひたすら馬車は樹々の間を走る。いくつかの村を通り過ぎるたび、村人が目を輝かせて白い馬車に向かって手を振ったり、恭しく首を垂れていた。

やがて頑丈な門と果てしなく広い園庭を抜けると、巨大な建物が見えてきた。三階建ての煉瓦造りの館は左右に多角形の塔を擁し、見事に並んだたくさんのガラス窓が陽光を受けてキラキラと光っていた。古い様式だが、隅々まで手入れされているのがわかる。

 屋敷の前には、家令を中心として使用人たちがずらりと並んで新郎新婦を今か今かと待っていた。
 馬車から降りるなり、二人は恭しく迎えられる。彼らは一人ひとりが花を一輪ずつ手に持っていて、

「リリシア様、ようこそいらっしゃいました」
「奥様、ようこそグリンデル領へ」

 と笑顔でリリシアの手に花を渡し名前を告げていく。皆の瞳には歓迎の気持ちが現れていて、彼女はどぎまぎとしてしまった。

リリシアはたちまち大きな花束に囲まれてしまう。彼女は驚きで目をまんまるにして使用人たちのことを見渡した。こんなふうに家人に笑顔で迎えられたことなどないのだ。

(みなさん、私の生い立ちや王都での言われようをご存じないのかしら)

 リリシアは戸惑いを隠せずに、それでも嬉しくてうれしくて深く礼をした。セヴィリスは玄関前に立ち、こほんと咳払いをした。

「私の花嫁になった、リリシア殿だ。皆、精いっぱい仕えるよう頼むよ」