リリシアは曖昧に頷く。思わず彼をじっと見つめていたらしい。

「どうしたの? もしかして、長い道行に気分が悪くなってしまったかな」

 彼は心配そうにリリシアの顔を覗き込む。緑の瞳に見つめられ、リリシアは再び吸い込まれそうになってしまう。

「顔色があまり良くないようだ、やはり……」

 彼が呟き、何かを言いかける前にリリシアは慌ててかぶっていた白い帽子のつばを深くおろした。

「いえ、すこし、緊張してしまって。申し訳ありません。なんともありませんわ。そ、それより、とても美しい景色ですね」

 彼女は顔を逸らし馬車窓の外を見る。

(やっぱり、顔に出てしまっていたのね。おしろいでは隠しきれなかったみたい)

 侍女が彼女の隈を隠すためにいろいろ塗ってくれたのだが、あまり効果がなかったようだ。ヴェールをとり、帽子に変えたとしても、館に着けば彼女の不健康な様子は皆に知られてしまう。

(でも、娶った妻が魔獣の夢をみるなんてこと、不吉すぎる。そんなこと打ち明けられないわ。追い出されてしまう……)

「そうだね……この森は美しい」

 セヴィリスは何かを考えるようにリリシアをしばらく見ていたが、それ以上はなにも言わなかった。