リリシアははっと顔を上げた。
(似ている……あの森で……、魔物から助けてくれた剣士様)
あのとき、見知らぬ剣士は覆面をしていて顔が見えなかった。だが、瞳の色とそしてこの声は紛れもない。
「……っあ、のっ」
リリシアは思わず身を乗り出した。
(で、でも……っ雰囲気がぜんぜん違う、かも)
窓の外を見つめ続けているセヴィリスの横顔は穏やかで麗しく、まるで神話の住人のようだ。
リリシアはあの時の、雷鳴と風の唸り声の中に立つ剣士の姿を思い浮かべた。激しく燃える闘気を纏い、魔物に一歩も怯まず向かっていった雄々しい姿は目の前の端麗な青年と同じとは思えない。
(やっぱり、人違いかもしれない)
「なにか?」
セヴィリスがこちらを振り向いた。長いまつ毛が憂い気に上下する。リリシアは小さく首を横に振った。
「い、いえ……」
(ど、どっち……? わからないわ)
リリシアがぐるぐると考えてしまっているうちに、馬車の外で緑はますます濃くなり山が近くなってきた。
「もうすぐ着くよ。私は街と森に二つ屋敷を持っているんだけど、貴女には森の方に住んでもらおうと思っている。少し不便だけれど、ごめんね」
「と、とんでもない、ことです」
彼は美しい印象に似合う優しげな話し方をした。
(や、やっぱり、違う方よね?)