「だ、大丈夫でございますか……?」
「今日はお天気がいいから、すぐ乾くと思うわ。気にしないで」

 リリシアは庭園を照らす柔らかい日差し見て使用人に頷いた。

「わ、私侯爵夫人にお伝えして……」
「いえ、結構よ。夫人に余計なご心配をおかけしてしまうでしょうから……。今日はこれで失礼いたします」
「お、お嬢様……そんな!」
「申し訳ありませんが、馬車を一台お借りできますか?ベルリーニ家の馬車を使うと、姉妹達が帰れませんので……」

 まだ新人の使用人はおろおろしてしまう。彼女は近くで忙しそうに立ち働く年かさの使用人に声をかけた。

「あの、すみませんっ、あのお嬢様がお帰りになられると……まだお茶会は始まったばかりですのに」

 彼女はちらりとリリシアを見た。

「ああ。あれはベルリーニ家のリリシア様ね。……また従姉妹様たちにいじめられたんでしょう?お嬢様の言う通りにしてあげて」
「で、でも」
「いいの。あの方はまともにお茶会に参加できたことがないのよ。いつも何かしら意地悪されて……お可哀想だけど、私たちじゃどうにもならないわ」

 先輩使用人は肩をすくめた。

「なにしろリリシア様はベルリーニ伯爵家の負の財産なんですから」