リリシアは意味がわからず少しだけ眉根を寄せた。反対に彼女たちはさらに瞳を輝かせる。

「頭がね、妖精さんみたいにふわふわしてるってこと」
「頭がおかしいってことよ」

「まぁ、そんなはっきりと言ったら失礼よルーシー」
「ふふ。でもね、皆さんがそうおっしゃるんだから、嘘じゃないわ。夜会にはたまに参加されるけれど、誰とも踊らないし、喋らない。庭園や周りの土地をこそこそと歩いてばかりで、時には土と泥でお洋服を汚してらっしゃるのよ。たまにぶつぶつと独り言までおっしゃるらしいわ」
 セーラは肩をすくめ、ひそひそ声になる。とても嬉しそうだ。
「もうあれは不気味よね。何かに取り憑かれてるんじゃないかしらって、もっぱらの噂よ。はじめは皆さまもそのお美しさに憧れたのだけど、だんだんと寄りつかなくなって……お顔が綺麗なだけに余計こわいの」

「それにね、デインハルト家は昔からある由緒正しいお家だけど、すごく謎めいてるの。森の中に引っ込んで暮らしている一族なのよ。その中には、気が触れる方も多いんですって。今ではね、あの方のことは誰も話さないわ。だって関わりあったら怖いもの。陛下の覚えはいいらしいけど、きっとそんなの嘘だわ」