リリシアはあれに触れられるギリギリのところで目を覚ます。冷や汗をどっさりとかいて。心臓はどきどきと変な動きをしていて、夢のことを思うと吐き気がおそう。一生懸命深く息を吸って、あの魔獣の息遣いを身体から追い出そうとするのだ。

 そうしてまだ夜明け前に起きだし、衣を替えて気を晴らすために外へ出る。咲き始める花を見つめていれば、少しずつ気分がおさまってくる。そんな生活がもう半月も続いていた。夜、ほとんど眠れていないため、日中もぼうっとしてしまうことが多い。いま、彼女の暮らしはあの魔獣の夢に支配されているようなものなのだ。


 あの日のことは屋敷では話していない。御者にも黙っていてほしいと伝えてある。
 伯爵や夫人にあの騒動を知られたらこの先修道院の訪問まで禁じられてしまうかもしれないと思ったからだ。それに、ルーシーたち姉妹はリリシアの楽しみを奪うこと自体を楽しんでいた。

リリシアは首を横に振り、そして話を逸らした。
「あの、お相手は、その、どんな方なのでしょうか?」

 口籠もりながら尋ねた。養父の威圧的な態度はいつも、リリシアを幼い少女の頃に戻してしまう。あの頃から威厳のある髭も冷たい態度も怖くて怖くてたまらなかったのだ。

「そんなことを知ってどうする」