リリシアはあまりに突然のことで言葉が出ない。
(いったい、どこのどなたが……)

 彼女はお茶会や夜の宴に招待されても、先日のように途中で退席することが多い。誰とも親しく話せたことなどなかった。皆、ベルリーニ家の厄介者を敬遠しているのに。そんな自分に婚姻を申し込む者がいるなんて、リリシア自身も驚きだった。

「なんだ? まさかお前なにか病気でも持っているのではないだろうね?」

 伯爵は苛々とリリシアを見た。

「いえ、そんなことは……」
「そういえば、顔色が良くない気もするが」

 リリシアは慌てて首を横に振る。

 本当は、毎晩悪夢にうなされているのだ。

 あの魔獣は毎夜リリシアのところへやってきた。白い空間で、黒いシミから醜い獣に姿を変え、動けない彼女のそばへ寄ってくる。そうして彼女を視線で犯すかのように睨め回すのだ。

「どこも、悪くなんて、ないです……」