彼女たちは眉を下げて気の毒そうにリリシアを見ていた。その場にいた十数人の令嬢たちは互いにこっそりと見つめ合い、皆曖昧に微笑むだけだ。誰もリリシアのことを助けるものはいない。

「あなたは優しいもの。こんなことで怒ったりしないわよね」
「そうよリリシア、そんなところに突っ立ってないで早く着替えてらっしゃいな。ここは侯爵夫人のお庭よ。そんなずぶ濡れでいたら『家族』の私たちまで恥ずかしいじゃない」

 セーラがリリシアに邪気のない瞳で微笑みかける。そして周りの令嬢たちの方を向いた。

「さあ、わたくしたちはあちらへ。今日はとてもたくさん殿方もいらっしゃるそうよ。バルコニーで皆さま力比べをなさるんですって、見に行きませんこと?」

 華やかなセーラとルーシーの姉妹はこの集団の中心だ。

「まぁ、素敵ですわ!」
「どなたが勝つのか、賭けをしませんこと?」

 良家の令嬢たちは顔を輝かせてあっという間に行ってしまった。リリシアは午後の光が美しく輝く庭園でひとり、取り残された。

ぽたぽたと滴が垂れる髪をそのままに呆然として立ち尽くす。使用人の一人が慌てて駆けてくる。

「お、お嬢様……いま、拭きますから」
「ええ、ありがとう」

 彼女はゆっくりと顔を上げ穏やかに答えた。