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「求婚……?私に?」

 リリシアは目を丸くした。

「ああ。お前にだ、リリシア」

 ベルリーニ伯爵は前のめりで頷いた。髭が興奮のせいでプルプルと震えている。リリシアが修道院へ行った日からひと月ほど経ったある日のこと。外はぐんぐんと春めいてきて、伯爵家の豪華な庭園も手入れに余念がない。リリシアは朝から一人、庭で花の蕾を見ていたところを呼び出された。

はじめ、養父は険しい顔でリリシアに尋ねた。

「お前は最近しょっちゅう朝早くから庭に出ているそうだな……なにをしているんだ」

「ご、ごめんなさい。最近あまり眠れなくて……庭のお花を見ていました……」

 リリシアは小さな声で謝る。別に謝るようなことをしているつもりはない。でも、伯爵の咎めるような視線にさらされるとつい先に「ごめんなさい」が出てしまうのだ。

「ふん、最高級の花の品種を集めているんだ。やたらと触ったりするんじゃないぞ。……まぁそれはいい」

 伯爵はリリシアの不眠などには全く興味がない様子で、興奮気味に婚姻の話を続ける。

「娘たちにくる求婚はいずれも我が一族には釣り合わなくてな。……だが、まさかお前にいい条件が来るとは思わなかった。いずれ修道院にでも働き口を見つけてやらねばと妻と話していたところだったからな。家格は申し分ない。非常に好都合だったよ。驚くべきことに、持参金もほとんど必要ないとのことだ」

 威厳たっぷりの髭を生やした伯爵の口からはあけすけな言葉が次々と出てくる。世間では人当たりもよく徳高いと評判だ。
 なにせ、一族とは縁を切った駆け落ち令嬢の娘を引き取ってやった心の広い人物なのだから。
 だが彼はリリシアに対して冷淡だった。

「あちらの申し出で、すぐにでも婚礼式を挙げたいそうだ。ともかく、断る理由はひとつもない」
「あ、の……」