あの後、修道院には森での出来事を伝えた。だが、魔物に遭遇したということはなかなか信じてもらえなかった。

「雷と風が酷かったでしょう。狼を見間違えたのでは? ともかく、無事でよかった。ほんとうに本当にありがとうございます!」

 院長は心から心配し、シノたちの無事を喜んでくれたが、剣士たちについても狩人と間違えたのでは?と半信半疑のようだった。そのような黒衣の覆面剣士など聞いたことがないと首を横に振るばかりだった。だがそれも、無理もないことだ。

 この森にそのような魔物の噂はこれまでなかったし、この国に魔物が巣食っているなどという話はおとぎ話でしか聞いたことがない。

 リリシアも御者も無事逃げられた今では、あれが悪い夢のように思えてならなかった。

少年たちだけは、「あれは本物の剣士で、本物の魔獣だよ!」とずっと興奮していたが。

(でも、あんなにはっきりとした姿を夢に見るなんて、やっぱり狼を見間違えたわけじゃないんだわ……じゃあ、本当に、あんなに恐ろしい魔物がこの世にいるということ……なの?)

 リリシアは汗で湿った夜着を脱ごうと肩に手をかけた。

「痛……っ」
 肩がヒリヒリとする。あれの爪が掠ったところだ。傷になり化膿でもしたのだろうか。だが、彼女の白い肩にはなんの痕跡もない。リリシアはため息をついて外を見た。

(今日はもう眠れなさそうだわ)

 リリシア寝台から起き上がり、窓へ近づいた。満月へと向かう半月が鈍く空で光っていた。

 だが、彼女の悪夢はその日から毎日続くことになるのだ。