とうとう魔物は背中から血を流しながら、ぐらつく体を支え森の中へと逃げていった。狼たちもリリシアの炎に怯え走り去っていく。森へ消える前、人間の手足を持ち、狼の頭を持つ怪物は一瞬こちらを振り返った。
 その目は剣士ではなく、リリシアをしっかりと捉えにかにかと笑うと、傷を庇いながら闇へ消えた。

 やがてさらに三、四人の剣士たちが森の中から現れた。全員同じように黒衣を纏い顔を布で覆っている。

「大丈夫ですか!(きょう)
「あれは、あの魔物は……っラギドは」
「追え! 怪我をしているからそう遠くへは逃げられないはずだ。私もすぐに行く」

 黒衣の剣士が大きな声で答えると、男たちは頷き再び森のなかへ向かってしまった。リリシアと少年たちは地面にへなへなと座り込んでしまう。
「こ、こわかったよお……シノ」
「に、逃げていった……」
「あなたたち、怪我はない?」

 少年たちは体を震わせて身を寄せ合い、頷いた。そこへ先ほどの剣士がリリシアに近づいてくる?

「君!なんて危ないことをするんだ!」
 
彼の大剣は魔物の血を吸いしゅうしゅうと黒煙をあげている。

 彼女は呆けたように大剣と剣士を見上げた。

「も、申し訳ありません……む、夢中で……」
「武器も持たぬ身であれの前に飛び出すなど……っ」

 黒の覆面で表情はわからない。だが緑の瞳はくっきりとリリシアを睨んでいた。