リリシアはとっさに馬車にかけてあるランタンを掴んだ。そして赤々と燃えているランタンの覆いを外しながら、剣士の元へ走っていったのだ。

(これで追い払えるかもしれないわ)

ランタンを振りまわし、炎で狼を追い払おうとする。そこに剣士の怒声が響く。

「……っ、なにしているんだ!早く逃げろ!」
 男は驚いてリリシアに叫んだ。
「でも、狼が……っ」
「こちらに来るな!」
「だ、だって!ほ、放っておけませんわ」
「は?貴女は何を言ってるんだ。これは我らの責務だ」

 獣たちはリリシアの掲げる炎に怯えはじめた。

「責務? そちらこそ、なにをおっしゃっているかわかりませんわ……早く、はやく皆で逃げましょう!」

 強い風に逆らうように、リリシアは叫び返す。その剣幕に剣士は目を見開いた。魔物は耳障りな咆哮を空に轟かせている。

「私は逃げない」

 剣士は小さく呟くときっと顔を上げ、体勢を立て直した。そして再び異形へ剣を突き立てるため、向かっていった。