手にした大きな大剣からは、黒い血が滴り落ちている。鼻から下を黒布で仮面のように覆っており、顔はほとんどわからない。

「ラギド、お前の相手は私だろう?」

 剣士は低く鋭い声を魔物に投げつけた。人の体を持った獣はよろよろと立ち上がり、ぐるりと振り向いた。そして忌々しげなうめき声をあげる。

 黒い外衣の男はさらに大剣を振り上げ、刃先を煌めかせて魔物へと突進してゆく。

(け、剣士さま……? 一体どこから)

 リリシアたちの前で、魔物と剣士は激しくぶつかり合った。彼女はその間に急いで少年たちを起こし、馬車の方へと連れてゆく。

「だ、だれ? あれ」
「剣士だ!すごい…!」
「いいから、早く馬車へ!」
「かっこいい……」

 突然現れた雄々しい剣士に二人は興奮してしまい、彼から眼が離せない。リリシアはとにかく二人を無事に逃すことに集中していた。とうとう馬車まで着いたとき、二人が叫び出した。

「あっ、後ろに狼がたくさん来た!」
「やられちゃうよ、あの剣士様!」

 リリシアははっと振り向く。魔物とやり合う男の周りを大きな狼たちがじりじりと近づいていた。これでは、明らかに剣士の方が不利だ。

(ど、どうしよう…!このままじゃ、あの方まで…!)