半年後、満月の晩。グリンデル領と、他領の境にある荒森へ出向く静かな集団があった。

 ラギドがとうとう現れたのだ。

 あの醜い獣の傷が癒えたことがリリシアにはすぐわかった。悪夢が再び始まったからだ。

「間違いありません。今その地を騒がせているのはきっと、ラギドです」

 リリシアは確信に満ちた顔で聖騎士長の夫に伝えた。
 そして、彼らはラギドを迎え討つべくその地へ向かったのだった。居並ぶ聖騎士団の中に、リリシアの姿もあった。

「私を囮にしてくださいませ。旦那様」

 彼女はずっと前から考えていたことを聖騎士長である夫に告げた。

「そんなこと、できるわけないだろう。貴女のおかげでやつの復活がわかった。それだけで十分だ」
「私を狙っているのはわかっていたことでしょう?セヴィリス様も仰っていたことです。私の魔印があれば、必ずあの魔物は出てきますわ」

 セヴィリスは厳しい顔だ。

「お役に立ちたいのです。旦那様……それに、この石だってきっと、あの魔物を倒したいと思っているはずですわ」

 リリシアは胸のペンダントを掴み、掲げる。今や真っ黒に染まってしまった金石をリリシアは大切そうに胸に抱いた。

「この石はかつてルーデンで魔を滅していた一族の力の源です。必ずお力になれますわ」

「だが……」
「父には、ルーデンの祓魔士の血が流れているのです。ですから、私だってきっと大丈夫ですから」

 リリシアは力強い目で訴えた。