リリシアは口籠ってしまう。自分の幼いころなど、詳しく尋ねられたことなどない。楽しく話せる気がしなかった。

「貴女の母上はベルリーニの令嬢だったのでしょう?どうやって父君と出会ったの?」
「そ、それは、母が狩りに出かけて、怪我をして……その手当てをしたのが父だと聞いています」
「狩りを?母上はとても活発な方だったのだね」

 セヴィリスは驚いたように眉を上げた。この国ではよっぽどのことでないと女性は狩りなどしないのだ。

「ええ、そうみたいです。三人で暮らしていた時にも、よく父と森で過ごしたそうなので……」

 彼女は幼い頃のことをポツポツと話しだした。胸にしまい込んでいた思い出が少しずつ、彼女の口から辿々しく語られるのを、セヴィリスは愛しげな表情でじっと聞いていた。

「お二人は、とても仲が良かったのだね。薬師は様々な知識が必要とされる、人々のために働くとても大変な仕事だ。それを令嬢ながら支えた母上も、強い心の持ち主だ。……貴女のご両親は素晴らしい方だね」

 リリシアははっと彼を見た。

「ほ、ほんとうに?……本当にそう思われますか?」
 セヴィリスは強く頷いて、彼女の髪を撫でる。
「ああ。本当だよ。それに、貴女のことをとても愛していたのだとよくわかる。心から尊敬するよ。ぜひともお会いしたかった」

 リリシアの瞳から大粒の涙がほろほろと落ちる。彼女は肩を震わせ、セヴィリスの胸に顔を埋めた。

「ど、どうしたの? 大丈夫?どこか痛い?」

 彼は慌てて彼女の涙を拭こうとしたが、リリシアは彼の腕の中で子どものように声を上げ、ただ泣き続けた。