彼の言葉で、すこし緊張が解けた。リリシアはそっと息を吐く。そのとき、しゃらりとペンダントの鎖が小さな音を立てた。

「こ、れは……?」

 不意に、セヴィリスの声音が変わった。リリシアはペンダントを持ち上げ、夫に見せる。金色がランタンの光に照らされる。

「これは父からの贈り物です。あ、そういえば、お話ししようと思っていました。この石なのですが、黒くなって滲みのようなものができているのです……」

 彼女が身を起こすと、セヴィリスはペンダントを手に取った。

「幼い頃につけてもらってから、肌から離したことはありません。私にとってはお守りなので、黒くなったのがすこし心配で」

「とても珍しい石だね。宝石でもないし、鉱石とも違うようだ。私は見たことがない。それに、この滲みは……」

 シャツを脱ぎ、締まった上半身を露わにしたセヴィリスは難しい表情で彼女のペンダントにじっと見いっている。その姿がとても官能的で、リリシアは思わず顔を逸らした。

手近な布を探して自分の肌を隠そうとしていると、セヴィリスがはっとしたように彼女の手を止めた。

「す、すまない、今は、これじゃないよね」
「い、いえ、わたしは……お話ししたのは私ですから……」

 思わぬ展開に、二人はぎこちなく固まってしまう。窓の外では、雨音がざあざあと二人を急かすように響いていた。

「冷えてしまうから、これを……」

 リリシアが夫に肩掛けを渡そうとした時、激しい稲光が部屋を青白く照らした。

「きゃ……っ」
 小さく悲鳴をあげた妻を、セヴィリスが抱きしめる。

「だ、大丈夫。そんなに近くないから」
「……」

 震える彼女の肩に、セヴィリスはそっと口づけた。そして、また唇を重ねる。

「セヴィリスさま……」
「こうしていたら、すぐに雷も止むよ……」
 彼女はかすかに頷いて、セヴィリスの腰に手を回す。彼の優しさにくらくらとする。もっと、もっと近くに彼を感じたかった。

「旦那さま、続き……して?」

 思わず甘い声が出る。セヴィリスの身体がぴくりと震えた。ゆっくりと、再びリリシアの体は寝台に横たえられる。

「あいしてる、リリシア」

 稲光に照らされて、彼の瞳が妖しくゆらめいた。