戸惑いと、悲しみと、喜びと。いくつもの感情がものすごい勢いでリリシアの身体を駆けめぐる。
なんの気持ちが自分の本当の想いなのかもわからない。弟の復讐、聖騎士の務め、そして同情。彼の優しい笑顔の陰に、こんなにも様々な感情が渦巻いていたなんて。

 リリシアはゆっくりと、彼の瞳を見つめた。自分の気持ちを確かめるように口を開く。

「私は、……戸惑いの気持ちであなとのもとへ参りました。のけ者にされてきた自分になぜ、こんなに優しくしてくれるのか、わからないながらもありがたく感謝の日々を過ごしてきました。……そうして、あなたの人柄を知るにつれ、どんどん、どんどん愛しくなっていったのです」
「リリシア、殿……」

「リリシアと。私は、とうに、あなたをお慕いしております。心の底から、大好きです」

 彼は瞳を瞬かせた。暗い炎は去り、甘い熱情が二人を包む。唇が、そっとそっと、近づいた。

柔らかな感触がリリシアの唇をあたたかく包む。躊躇いがちに重ねられたセヴィリスの唇はやがて、情熱を持ってリリシアのそれを喰んだ。

「リリシア……好きだ。愛しくて、たまらない……」
 
彼の声に滲む甘く苦しい切なさに、リリシアは眩暈がしそうなほどの幸せを感じた。

(私、わたしも、大好き……)

婚礼式以来、二人はここで初めて心からの口づけを交わしたのだった。