「な、に突然」
「お屋敷の美術品、大変美しく見事でした。ですが」

 彼は声を顰める。緑の瞳が煌めいた。

「どうやらここには魔物が住んでいそうです。ほら、空気がどんよりと濁っています……嫌な匂いまでしてきました」
「え、な、なに……ま、もの?」

 彼女たちは顔をこわばらせて周囲を見渡す。

「よほど醜い怪物なのでしょう。私は役目柄、魔の気配には敏いのですが……これは私の剣では滅することはできぬ類のものです。こんなところに愛する妻を留めておけばどんなことになるかわかりません」

 腰の剣が美しい音を立てた。彼は妖艶に微笑む。

「私たちは早々に立ち去ります。どうか、皆様ご無事で。ごきげんよう」
 軽々とリリシアを両腕に抱き、セヴィリス・デインハルトは颯爽と歩いて出ていった。

 その姿を三人の女性は魂を抜かれたようにして見つめるばかりだ。

「……怪物……ってなに」
「……」


 馬車のなか。

 待っていた馬車に妻を乗せると彼は自分の乗ってきた馬を修道院へ返すよう馬番に伝える。そして、妻の隣へと乗り込む。

 彼はリリシアを無言で強く強く抱きしめた。