顔を上げて彼女たちをまっすぐ見据える。迷っていたリリシアはいま、心を決めた。

 魔印によって繋がった形だけの夫婦としても、夫を支える。できることはたくさんあるはずだ。自分もデインハルト家の一員となって、彼を助けていく。

「な、に言ってるの。急に変な宣言しないでよ」
「いままで、大変お世話になったことはとても感謝しております。けれども謂れのない嘲りや、人を無視したような振る舞いは決して、褒められることではありません。お二人とも、お義母様も、社交の場においてはそのことをもっと心に銘じて楽しまれた方がよいように思います」

 凛として、リリシアは言い切った。

「な、なんですって……」
「私たちがいつ、誰を蔑んだっていうのよ。あんたはそうされて当然なのに……父親の」

 口がだんだんと歪んでいく。彼女たちがさらに言いかけた時、リリシアの体がふわりと持ち上がった。

「ご婦人がた。お話し中失礼。妻の具合が悪いようですので、これにて辞去いたします」