ベルリーニ館の煌めく調度品の中で、二人は見つめあう。

(こんなところで。手を離さなきゃいけないのに、……離したくない、わ……)

 彼女はとうとう、自分の気持ちを認めた。自分は、セヴィリスのことが好きなのだと。

(……馬鹿ね。好きになってはいけないと誤魔化してきたのに。だめだわ。セヴィリスさまのこと、大好きで、愛しくて、たまらないもの……)

 愛のない婚姻生活と言い渡されてきたのに。守るためだと言われて、納得したはずなのに。

(迷惑をかけてしまうだけなのにね)

 彼の優しさに勘違いした自分が情けない。
 リリシアの口元が自嘲気味に歪む。

「リリシア殿……?」
「いえ、なんでもありません、本当にありがとう、ございます、セヴィリス様」

 リリシアはそっと手を離した。せめて、悟られないようにしなければ。彼女が顔を廊下に向けたとき、向こうに三つの人影が見えた。
 彼女の思考はそこでぴたりと固まってしまう。
 それは、あまりにも見慣れた光景だったから。

 ベルリーニ夫人とその娘たち。相変わらず、派手な装いの三人だ。その華やかさは人を惹きつけるが、ついてこれないものは容赦なく振り払う。彼女たちはこちらに向かってまっすぐにやってきた。

「リリシア。リリシア! 元気だった? あなたが来てると知って急いできたの。顔を見たくて」