美術品の像や鎧の並ぶ長い回廊を進み、リリシアとセヴィリスは玄関の間へと向かう。相変わらず豪華な装飾で彩られた館だ。

 従者や召使いが向こうからやってくるたびにリリシアを見て驚いたように傍へ下がり頭をさげる。皆「お気の毒なお嬢様」のことを気まずそうに見つめ、そしてセヴィリスの美しさに目を瞠っていた。

「ベルリーニ家の蒐集品はすごいね。あの像など叔父上が好みそうだ。もしかして、珍しい石も置いていないだろうか」

 無邪気に廊下や天井の装飾を楽しむ様子の夫の横で、リリシアは呆然としたまま歩いている。

(さっきのは……いったい)

『妻の喜ぶ顔が見たい』から、修道院ごと引き取る?

 そんなこと、あるだろうか。

 リリシアは夫におそるおそる声をかけた。

「あの、セヴィリス様。本当に、修道院の人たちを……グリンデルへ」
「ああ、本当だよ。もちろん、院長にはこれから話すんだけれど。悪い話ではないと思う」

  やはり、この方は、相当変わっている。ベルリーニ伯爵が面食らうのも無理はない気がしてきた。突拍子もないことをするのは夫の方かもしれない。

 彼はリリシアの顔を見てくすりと笑う。

「その顔。変人でも見ているようだよ」