「残った聖堂ごと引っ越しすることになるから、すこし日数がかかるだろうが、大丈夫かな、リリシア殿」
「……え?……あ」

 リリシアは成り行きに呆然としてしまって、彼の言葉にうまく反応できなかった。

(ど、どういうこと……? セヴィリスさま、あの子たちを引き取る、の……?)

「あの、あの……ど、して……」
 彼はにっこり笑う。

「君の望みは叶えるって言ってるだろう? シノにも少し話してあるから、とりあえず安心して?」
「あ、安心って……わ、わたし、なにがなんだか……」
「……セヴィリス、何が望みだ。お前に利などないだろう」

 義父が低い声で唸る。

「ここまでしてなにがほしい。これのことを欲しがったり、お前の行動は不可解だ。我がベルリーニになにを企んでいる」

 セヴィリスは肩をすくめた。

「利? 今回の件に関しては、私の利ならあります。妻の喜ぶ顔が見たい。それだけです。最も、我が父ならこう言うでしょうね。
『利。そんなつまらんもので動かない人間もたくさんいる。そのことを忘れるな、息子よ』」

 ベルリーニ伯爵の紫の顔が、赤く変わる。

「グリンデルではそのように教わりました。それでは失礼いたします」

 リリシアの肩を抱き、セヴィリスは悠然とベルリーニ伯爵の書斎を辞去した。