リリシアははっと口を噤む。公にしていないことを思い出したのだ。

「ともかく、妖精あたまなどというのはただの偏見です。失礼な発言を撤回してください!」
「リリシア……お前は…、お前は恩を忘れたのか。身寄りのないお前を引き取ったのは私だぞ」
「そ、れは……」

 リリシアは言葉につまる。

「セヴィリス殿。言っておくがこの子の出生はとても自慢できるものではない。我がベルリーニの血を……どこの馬の骨ともわからぬ男に捧げて生まれた娘だ。品性が卑しいからこうやって恩ある私にもたてつくのだ。あんな汚い修道院にしがみつきおって」
「彼女の生い立ちについていちいち説明頂かなくて結構。そもそも、出自に卑しいもなにもありませんが。我らはやるべきこと、なすべき義務のためにこの地位を授かっているに過ぎない。伯爵ともなれば、そのくらいはご存知でしょう?」

 セヴィリスの鋭い言葉が書斎に響く。伯爵はさらに顔を紫にしながらも、次の言葉が出ないようだ。
 まさか若造に言い負かされるとは思っていなかったのだろう。
 セヴィリスは気を吐くと、普通の声に戻った。

「……本当はあの土地を買い上げようと提案するつもりでしたが、これでは後に禍根を残すだけの気がしてきました。まがりなりにもあなたは義父ですし」
「な、買い取る……? 一体どういうつもりで」
「もちろん、取り壊しなどという暴挙から妻の安らぎの場を守るためです」

 彼は顔を上げ、まっすぐ伯爵を見た。

「……代わりに、行き場をなくした修道院の人々と寮の子どもたちを全員グリンデル領に引き受けてもよろしいでしょうか。お義父上。一人も欠けることなく」