松陰、まこと、トオルは書道教室の部屋へ移った。
 そこは広い部屋だった。畳敷きであり、小型の机が並べられていた。
 「好きなとこにおつきなさい」
 と、松陰。まことは適当な席についた。
 「トオルも」
 「え、俺も」
 「一緒にやりなさい」
 「はあい」
 トオルはまことの隣についた。まことはトオルを見た。
 「へへへ」
 と、トオルは両手を頭の後ろにやった。
 まことは笑った。
 「あ、笑った」
 まことは笑う。
 松陰がまことの机に新聞を広げる。まことは松陰の白い美しい手を見た。
 「はっ」
 それは驚くほど美しい手だった。
 「ありがとう」
 松陰は笑顔。松陰はトオルの机に新聞を広げた。
 「あんがと」
 トオルは両手を後頭部にやっている。
 松陰はまことの机に黒い布の下敷きを置いた。トオルにもそうした。それから硯と墨をまことの机に置いた。トオルにもそうした。それから半紙と文鎮を誠の机の上に置いた。トオルにもそうした。
 松陰はまことの前にたった。
 「好きなようにおかきなさい」
 「・・・・・・」
 まことは悩んだ。松陰は微笑んでいる。
 「えーと、何書こうかなあ」
 と、トオル。
 「ようし」
 と、トオル。
 「トオル、決まったのですね」
 「おお」
 まことはトオルを見た。
 トオルは硯に墨汁を入れた。墨をすった。筆を執り、墨につけた。
 「ようし」
 トオルは筆を半紙に置いた。
 「甘」と、トオルは書いた。
 「へえ、トオルらしいや」
 と、まこと。トオルは片手を後頭部にやった。
 「へへへへ」