「た、たまちゃん。詳しいことはまた今度話すからっ。とりあえず離れて…」
「なんでよ!」
「たぶん、わたしころされ…」
珠紀(たまき)


 それだけでたまちゃんをわたしから離れさせてしまった金山くんの響きは、恐るべし。
 恐るべし、名前呼び。


「ごめん、伊織」
「行くよ珠紀」


 と、何やら甘い雰囲気に包まれた二人は、恥じらいもじもじムードのまま手を振って去っていった。


「なにあの見せつけられた感……すげえ腹立つんだけど」
「じゃあわたしたちもあんなふうにラブラブする?」
「え」
「ごめんうそですすみません撤回します」


 気まずい気まずい気まずい。
 慣れない冗談は言うものじゃないよ。

 自分を戒めながら歩き出そうとすると、「雪莉」と呼び止められる。


「なに瀬尾くん」
「それ」
「え?」
「いつまで苗字呼びなの。試合の日、一回名前で呼んでくれた時あったよね」


 届いてたんだ……。胸の奥がじんわりあったかくなる。

「二人の時くらい、名前で呼んでほしいんだけど」

 桃色の頬で、告げられる。断れるはずがない。


「は、春馬…くん」
「……あー、けっこうやばいかも」
「なにが?」
「なんでも」


 嬉しそうに笑った瀬尾くん…もとい、春馬くん。春馬くんの機嫌が最高にいい今がチャンス!と思ったわたしは、ずっと考えていたことをきいてみることにした。