事件が起きたのは、九月の半ば。

 いつものように教室で小説を書いていて────親友であるたまちゃんに呼ばれて教室を出たところまでは覚えている。

 ただ、一つひとつの記憶が曖昧で……そう、机にノートを開いたまま、教室を飛び出したなんてことは、すっかり忘れていた。


「……っ!! 瀬尾くん?!」


 帰ってきてみてまず驚いたのは、練習着姿の瀬尾くんが教室にいたこと。そして次に驚いたのは────瀬尾くんが、わたしのノートを熱心に読んでいたことだ。


「ちょ、ちょちょちょ瀬尾くん!!」
「ん? あ、史倉さん」


 そんな、あら奇遇だね、みたいな反応されましても……。
 アナタが手に持ってるソレ、たぶんわたしの……。


「それっ、返してっ」


 飛びつくように近寄って、ノートを奪い取る。案の定、それはわたしの小説ノートだった。


「か、勝手に、っ……いや、置いてたわたしにも非はあるんだけど、でもできるだけ見られたくなかった、っていうか……」


 机の上に開いてあれば、気になってしまうのは仕方がないわけで。
 瀬尾くんを責める理由はわたしにはない。

 ただメンタル……!
 これは結構くるものがある。