「瀬尾くん…?」
「この試合……ちゃんとケガから復帰して、出場して勝てたら……史倉に言おうと思ってたことがある」
「えっ?」
「だからこの試合、誘った」

 うつむいたままそう告げた瀬尾くんは、覚悟を決めたように視線を上げて、瞳の中に凛とした光をたたえた。
 ほんのり上気した頰。震えるのを堪えるような唇。まっすぐな瞳。汗がキラキラと反射して、眩しい。



「俺、史倉のことが好きだ」



 世界が止まった。音が消えた。
 表すなら、そんな感じ。

 瀬尾くんの言葉を脳内で反芻して、しばらくして身体に熱が集まっていく。


「え」
「聞こえなかった? もっかい言う?」
「き、聞こえた聞こえた! じゅーぶんすぎるくらい、きこえた!」


 聞こえたけど、聞き間違えたかもしれない。不安になるような言葉だった。


「もし聞き間違いじゃなければ、わたしと同じ気持ちってことになるんですけど……いいんですか」
「……まじ」


 さっきまでとは比にならないくらい、耳まで真っ赤になった瀬尾くんは、「ちょっと待ってて」と言って姿を消す。
 そして数十秒後、観客席へと姿を現した。


 黄色い声援を受けながら、人混みをかき分けてまっすぐにわたしのもとへ向かってくる。



「雪莉」


 彼は、瀬尾春馬という人は。

 こんなに優しい顔ができる人なんだ。