いかにも男の子のような見た目をしているその子のもとへと駆け寄って、鋭い目をしていたはずの金山くんはトロンと相好を崩した。
 交わされた会話は二人だけにしか分からないけれど、金山くんがその子……たまちゃんのことをどれだけ好きかは、じゅうぶんすぎるほど伝わった。

 あんなに優しい顔をする金山くん、きっと誰一人としてみたことがない。そして、それが向けられるのは、たまちゃんただ一人だ。


「いったい誰だったんだろ」
「てか金山くんって男の子が好きなの?」
「えー、うそぉ?」


 たまちゃんの格好のせいなのか、おかげなのか。嫉妬対象にはならなかったみたいだけど、誤解も生まれてしまったようで。まぁそこは金山くんが上手く対応するのだろうと解釈して、席を探すのに戻る。



『史倉に見に来てほしいんだ。試合に出られるかの保証はないけど、それでも史倉に来てほしい』

 ふいに、瀬尾くんの言葉がフラッシュバックしてボボボと頬に熱が集まる。瀬尾くんの言葉の意味なんて、深く考えるんじゃない。そうだ、期待したらどうせ傷つくだけなんだから。

 だけどだけど…ちょっとくらい、期待してもいいよね?

 なんて一人で盛り上がっているうちに、試合が始まったみたいで。


「なんで瀬尾くんが出てないの?!」
「どうして!?」
「見にきた意味……!!」


 と順々に声があがっていく。視線を遣ると、ピッチ上に瀬尾くんの姿は……ない。


「今日休みなの!?」
「そんなわけないよ! だってあそこのベンチにいるじゃん!」
「ねえ瀬尾くん出してよ! 負けちゃうよ!」


 女の子たちは大ブーイング。瀬尾くんのケガを知らないからそんな好き勝手なことが言えるんだ。