「……ねえたまちゃん、あれって…」
「ああ、毎日やってるんだって。靭帯のケガって、選手生命にかかわることだから。一人じゃ耐えられないかもしれないからって」

 放課後のグラウンド。
 目線の先、苦しげな顔をしてトレーニングをする瀬尾くん。そのとなりには、ジャージ姿の金山くんがいた。


「すごくつらそう……あんなに負荷をかけて大丈夫なの?」
「お医者さんとトレーナーの人が考えた練習メニューなんだって金山くんが言ってた」


 とはいえ、ものすごく大変そうだ。厳しい顔でトレーニングのようすを見る金山くんは、ときおり「もっと深く」と瀬尾くんに指示を出す。


「っ……」
「98ダウン」


 それはもう必死。
 いつでもキラキラしている瀬尾くんのカケラはどこにもなくて。汗を流して、歯を食いしばって、ただ前を見据えて堪える姿だけ。

 瀬尾くんがこうしてケガとたたかっていることを、いったい何人が知っているんだろう。瀬尾くんは「あまり公にしたくないから黙っていてね」と言っていた。ぶつかってきた相手に罪悪感を抱かせたくないし、みんなを失望させたくないんだと。


『みんなはカッコいいとこだけ見てればいいから』


 表面上だけでいいのだと。そう言って笑う彼の強さが、ただただ眩しかった。