「雪莉も頑張って。雪莉の小説ならきっと結果に繋がるよ」
「うん。ありがとう、瀬尾くん。わたし頑張ってみる」


 わたしが力強くうなずくと、満足そうにうなずきを返した瀬尾くんは、そのまま窓の外に視線を投げた。

「俺もはやく戻んなきゃな。きっついと思うけど、やるだけやってみる」
「瀬尾くんなら大丈夫だよ。だって瀬尾くんなんだから」
「なにそれ。でもありがとう」

 笑いながらも嬉しそうにうなずいた彼は、立ち上がって教室を出ていった。
 残されたわたしは、小説ノートを手に取って、何気なく最後のページを開く。


「え……っ」


 するとそこには。


【面白い! 続きが気になる!】
【キュンキュンが止まらない!】
【〇〇が気持ちを伝えにいくところがよかった】


 など、ぎっしり文字が並んでいる。匿名だけれど、この小説を読んだクラスメイトたちが残してくれたものだと分かった。


(嬉しい……)


 こうして文字に起こされると、余計に嬉しさが膨らんでいく。誰が始めたことなのか、そんなことはどうだっていい。たくさんの感想をひとつひとつ目でなぞりながら、幸せを噛み締めていたときだった。


 ひとつだけ、さまざまな感想に紛れて、感想ではないものがあった。

【がんばれ】

 ひときわ目を惹くそれは、力強い筆跡でそこに記されている。
 その応援メッセージは、すべてのわたしに対するものなのかもしれない。言いたいことを言えるようになって、小説でも結果を残せて、それで……。


────好きな人に、好きだと言えること。


 いや、最後のはいくら応援があっても無理そう。そんなことを考えるとだらしなく頬がにやけてしまうので、わたしはキリッと精一杯の凛々しい顔をつくる。


 がんばれ、と。安心する大好きな声が、文字と一緒に聞こえたような気がした。