甘く優しくおしえて、ぜんぶぜんぶ。





────いぬまる あこ。

それだけでも知れた俺は、それからずっとその子のことが忘れられなかった。


また同じ場所に何度も行ったものの、それ以来会えなかったんだけど。



『スゲーだろ千明。俺たちの仲間になれば、この街の情報ぜんぶが手に入るぜ』


『……情報…、ぜんぶ』


『ああ、もちろん特定の人間の個人情報だったりもな。だから来いよ、お前の力が必要なんだ』



中学の先輩のそんな言葉が、俺をこの世界に引き込んだ。


喧嘩は嫌いだった。

暴走族とか、そんなのただの恥ずかしい迷惑集団だろって思ってた。


また会えるかもしれない。
あの子に、いぬまるに会える───、


本当にそれだけだったんだよ。

俺が暁─Akatsuki─に入った理由。



「それなりに女と関わったりもしてきたけど、やっぱなんか……自分のなかで忘れられない奴っているんだよな」


「チャンスだと思ったんでしょ、千明」


「………なんだよその顔。俺らしくないとでも思ったか」


「…いーや逆。すごく千明らしいと思ったよ?」