君に僕の好きな花を

地元で進学・就職をした人の中には結婚して、子どもがいる人も多くいた。そりゃあそうだよね。

職なし、彼氏なし、もちろん結婚も出産もしていない自分がどこか虚しくなる。横浜に行かなかったら、私も今頃誰かの奥さんになって、お母さんになっていたのかな?

「ここが僕のお店」

江戸川くんが足を止め、どこか照れ臭そうにお店を指差す。レトロな雰囲気の木製の建物だった。手作りらしき可愛らしいイラストが描かれた看板には、店名だろう「シャムロック」と書かれている。何だか落ち着いた雰囲気で、すごくよさそう……。

「素敵なお店だね!」

私がそう笑みを浮かべながら言うと、「せっかくだから中に入って。自慢の花たちを見ていってほしい」と促される。

「じゃあ、お言葉に甘えて……」

江戸川くんがお店の鍵を開け、「どうぞ」と言いながらドアを開ける。一歩中に足を踏み入れた私の鼻腔に、ふわりとたくさんの花の甘い香りが入り込んだ。