ーーコンコン


何度目だろう。
このドアを叩くのは…

「どうぞ」

中から声がして入る度に行う儀式のように深呼吸した。
ドアを開け中に入り真っ直ぐ副社長を見つめる。

「副社長にお話があります」

上座に位置する席から少し不安そうに立ち上がり私の前に歩いて来た。

「白石さんお話とは…」

何も言わない真剣な面持ちの私を真剣に副社長は見つめてくる。
それに私も真っ向勝負して見つめ返しすーっと息を吸い言葉に勢いをつけた。

「蘇芳を辞めたいと思います」

一瞬にして冷たい空気が部屋を覆う。

「白石さんどう言う事?」

今までで一番悲しそうな顔で私を見つめる。

「その名字で呼ぶの嫌です」
「あっ、はい」

「騙されるのも嫌です」
「はい…」

「私の世話をやくのは…まあ良いです」
「はい!」

「好きですって簡単に言うのも嫌です」
「…はい」

「女性に振られた振りして私に近づくのも嫌です」
「あっ、それは…はい」

「でもそんな少し変な副社長を支えて行けるのは私しか居ないと思います」

一気に話してまた息を吸い込み…

「永久不変の地位を頂きにきました」

少し大きめな声でハッキリと口にした。

しーんと静まり返った副社長室に息が詰まりそうになる。
黙ったまま微動だにしない副社長はやっと口を開いた。

「桜子さん本当に良いの?」

副社長から言い出した見返りの話なのに不安そうに聞いてくる。

「財閥の息子で副社長が付いてますから」

前に副社長から言われた陳腐な脅迫でわざと返し入社以来一番の笑顔を向けた。

「そうですね。僕は御曹司で副社長」

泣きそうなのか笑みなのか分からない顔を向けて、

「そんな僕は桜子さん以外愛せません」

そう言って私を力強く抱きしめた。
副社長の身体が震えてる。

「本当に私が居ないとダメですね」

私も強く彼を抱きしめた。


余談だけど、藍沢チーフにされたお願いは…

『千晶を支えて欲しいの』

それだけ。

一緒に蘇芳400年を背負う為に決めた事で一切後悔はない。

私の人生の見返りに…

永久不変の溺愛して貰います!